医療現場に携わる薬剤師に期待されるOTCの知識
ファルマシア Vol.39,No4.2003 325-328

八王子薬剤センター 下平秀夫、茂木徹、朝長文彌


1. はじめに -セルフメディケーションの重要性の高まり-

 患者自身の医療に対する関心や健康を自らの手で守ろうとする意識の高まりにより、セルフメディケーションの重要性が改めて認識されつつある。セルフメディケーションにおいて病気をコントロールする主役はまさしく患者であり、一般用医薬品(以下OTC)の服用については患者(医療消費者)が自己決定権をもっている。
 一方、その患者が本当の主役になれるためには、誤った選択をしないように薬剤師等によって適正な医薬品情報が与えられるべきである。1) しかし、病院薬剤師や調剤専門薬局薬剤師のOTCへの関心が高いとは言い難い。医療の前線に携わる薬剤師の一層の情報収集と、適正使用に向けた服薬指導を期待したい。

2. OTCは医薬品

 OTCは医療従事者が考えるより深く一般の人に受け入れられ、また、医療用医薬品よりも知名度は高い。OTCはほとんどの商品に患者用添付文書が添付されている。ドリンク剤、エアゾール剤はラベルもしくは缶に刷入されている。しかし、医療従事者にとってOTC情報はあまりにも少なく、関心も少ないといえよう。OTCはれっきとした医薬品であり、当然、薬効と副作用をもつ化学物質である。薬剤師はOTCのよきアドバイザーでなければならない。

3. OTCの定義

 医薬品は薬事法第2条で規定されているが、医療用医薬品とOTCの区別については明記されていない。医療用医薬品の定義については、昭和55年4月10日付けの厚生省薬務局長通知(薬発483号)において、「医師若しくは歯科医師によって使用され又はこれらの者の処方せん若しくは指示によって使用されることを目的として供給される医薬品であること」となっている。OTCについては、同じく薬務局長通知(昭和55年5月30日薬発698号)において、「医療用医薬品以外の医薬品」とだけ定義されている。
 一方、OTCの規制見直し等を進めている厚生労働省の一般用医薬品承認審査合理化検討会(座長:小林眞男氏)が平成14年11月8日に中間報告書(案)を発表した。この中でOTCは「一般の人が薬剤師等から提供された適切な情報に基づき、自らの判断で購入し自らの責任で使用する医薬品」とされている。OTC適正使用のための薬剤師の役割は益々大きくなるので、薬剤師自身の自覚が待たれるところである。
 
4.OTC拡大の動き 2)

 従来、厚生労働省は、医薬品業界に対する実務指針である医薬品製造指針で、OTCの用途を「軽い病気の症状の改善」「健康の維持・増進」に限っている。一方、前述の中間報告(案)では以下のように範囲が拡大され、規制が大幅に緩和されている。今後多様な薬が市販されることになろう。
 (1) 生活習慣病等の疾病に症状発現の予防
   (高コレステロール血症、高血圧症、糖尿病、花粉症やハウスダストによるアレルギー症状)
(2) 生活の質の改善・向上
(発毛、禁煙補助、不眠、軽い尿もれ、肥満等)
(3) 健康状態の自己検査
(侵襲がないか少ない測定項目)
 (4) 軽度な疾病に伴う症状の改善
(外用剤による創傷面の化膿防止・改善、膣カンジダや口唇ヘルペスの改善等)
 (5)その他保健衛生を目的とするもの

5. OTCをもっとよく知ろう


 バファリン、セデス、アリナミン、キャベジン、オイラックス・・・・これらはOTCでも、よく耳にする名前であるが、OTCと医療用医薬品とは若干組成が異なる。以下に、医療従事者に必要と思われるOTCの基本的な情報について、いくつかの例を挙げる。

5-1. OTCのバファリンはアスピリン含有とアセトアミノフェン含有のものがある

医療用のバファリン81mgやバイアスピリンは虚血性心疾患などの患者に対し、長期投与による抗血栓効果を目的として投与されている。
 一方、医療用のバファリンの成分がアスピリンであるのに対し、OTCの場合、バファリンAはアスピリンを含んでいるが、バファリンジュニアかぜ薬、バファリンエル錠等にはアセトアミノフェンが含まれている。表1にバファリンという名称を持つOTCの解熱鎮痛成分の比較を示した。以前はOTCの小児用バファリンにも医療用の小児用バファリンと同じように、アスピリンが含まれていたが、1982年米国でアスピリンなどのサリチル酸系製剤とライ症候群の関連性を疑わせる疫学調査結果が報告され、日本でも小児に対する投与に注意喚起が行われた。そのため、現在我が国では、OTCの小児用のかぜ薬や解熱鎮痛薬にアスピリンは用いられなくなっている。
 厚生省医薬品等安全性情報No.151、No.157により、サリチル酸系薬剤の投与について再度注意が喚起された。アスピリン等のサリチル酸系製剤を含有する医薬品は15歳未満の水痘、インフルエンザの患者には原則禁忌である。なお、サリチル酸系製剤とはアスピリン、エテンザミド、サリチルアミド、サリチル酸ナトリウム、サザピリンなどである。例えば、バファリンエルにはアスピリンは含まれていないが、エテンザミドが含まれるので注意が必要である。

表1 バファリンという名称を持つOTCの解熱鎮痛成分の比較 (平成14年10月現在)

品名 解熱鎮痛成分

バファリンA、バファリンウォーター(発泡錠)
アスピリン
バファリンエル アセトアミノフェン、エテンザミド
バファリンジュニアかぜ薬、小児用バファリンシロップ、小児用バファリンかぜシロップ、小児用バファリンCII、小児用バファリンチュアブル アセトアミノフェン

(2003.2には、バフアリン小児用はキッズシリーズとリニューアルされている。)

5-2. OTCにもピリン系薬剤がある -サリドン、セデスハイ、プレコール-

 医療用医薬品のサリドンやクリアミンAはピリン系薬剤のイソプロピルアンチピリンを含むため、ピリン系、ピラゾロン系、アミノフェノール系薬剤に過敏症の既往歴がある患者には投与禁忌である。OTCには頭が同じ名前でもピリン系のものと、非ピリン系のものがある。例えば、サリドンエースはエテンザミドとアセトアミノフェンを含むが、サリドンAにはイソプロピルアンチピリンが含まれている。
これら以外にOTCでイソプロピルアンチピリンを含むものとして、セデスハイ、プレコール持続性(カプセル、顆粒、錠)、エザックエース、アルペンゴールド(顆粒、カプセル)、セミドン顆粒等があげられる。

5-3. OTCにもステロイド外用が多い。


 現在、ボラギノールの名を持つ医療用医薬品はN坐薬とN軟膏の2種類があるが、両剤とも副腎皮質ステロイドは含まれていない。しかし、OTCのボラギノール5種類のうち、AシリーズのA坐剤、A注入軟膏、A軟膏の3種は、酢酸プレドニゾロンを含む。現在OTCの多くの痔疾用薬にステロイドが含まれている。表2にボラギノールという名称を含む医薬品の組成の比較を示した。
 OTCに配合されているステロイドには、weakに属するものが多い。酢酸デキサメタゾン(ムヒアルファS、ウナコーワA)などがこれにあたる。しかし、医療用からスイッチされたものにストロングに属する吉草酸酢酸プレドニゾロン(オイラックスPZ(軟膏、クリーム)、カユミックアルファ(軟膏、クリーム)等)もある。ただし、医療用のリドメックスコーワ(軟膏、クリーム、ローション)等は濃度が0.3%であり、OTCの濃度は0.15%と半分である。

表2 ボラギノールという名称を含む医薬品の組成比較 

品名   医/OTC 組成
ボラギノールN坐剤、ボラギノールN軟膏 医療用  シコンエキス、アミノ安香酸エチル、塩酸ジブカイン、塩酸ジフェンヒドラミン、セトリミド
ボラギノールA坐剤、ボラギノールA注入軟膏、ボラギノールA軟膏 OTC 酢酸プレドニゾロン、リドカイン、酢酸トコフェロール、アラントイン
ボラギノールM坐薬、ボラギノールM軟膏 OTC グチリルレチン酸、リドカイン、酢酸トコフェロール、アラントイン
内服ボラギノールEP (顆粒) OTC  ボタンピエキス、セイヨウトチノキ種子エキス、シコン水製エキス、酢酸トコフェロール

ボラギノールの名を持つ医療用製剤では現在ステロイドを含むものはない。しかし、OTCではステロイドを含むものが主流となっている。 

6. 漢方薬 ー医療用医薬品とOTCのエキス含量の違いー

 漢方薬の多くは、性質上長期に渡って服用するものが多い。今回はカネボウ薬品の葛根湯に限定して、その成分量の違いを表3に示した。
 カネボウの葛根湯だけでも、医療用、OTCあわせて8品目がある。そのうち医療用のカネボウ葛根湯エキス細粒とOTCの葛根湯エキス顆粒Aカネボウには同量のエキスが含まれており、剤形の違いを除けばほぼ同等と考えられる。

7. 最近のスイッチOTC


 スイッチOTCが言葉として使われはじめたのは世界的にも、わが国でも、1980年前後といわれている。一般用医薬品の承認申請に際していくつかの申請区分があるが、その中でスイッチOTCは「新有効成分以外の有効成分であって、既承認の一般用医薬品の有効成分として含有されていない成分を含有する医薬品」に該当する。簡単にいえば、医療用医薬品であったものが、医師の処方せんなしに薬局で購入できるようスイッチされたものである。平成9年にスイッチされたH2ブロッカーのシメチジン、ファモチジン、塩酸ラニチジンや平成12年にスイッチされたテプレノンなどが有名である。
 これに対し、「新有効成分含有医薬品」は「ダイレクトOTC」と呼ばれ、発毛剤のミノキシジル(リアップ)がこれに該当する。

2002年4月に新たに5成分のスイッチOTCが増えた。

1.プロピオン酸系非ステロイド消炎鎮痛薬「プラノプロフェン」・・・(医療用医薬品のニフラン点眼と同成分)
2.ベンジルアミン系抗真菌薬「塩酸ブテナフィン」(メンタックスと同成分)
3.イミダゾール系抗真菌薬「塩酸ネチコナゾール」(アトラントと同成分)
4.アリルアミン系抗真菌薬「塩酸テルビナフィン」(ラミシールと同成分)
5.フェニルプロピルモルホリン誘導体の抗真菌薬「塩酸アモロルフィン」(ペキロンと同成分)
また、同時期、塩酸フェニルプロパノールアミン(以下PPA)に代わる鼻充血除去成分として、塩酸プソイドエフェドリンと硫酸プソイドエフェドリンが新たに収載された。これは平成12年11月に厚生労働省の医薬品等安全性情報よりPPAについて出血性脳卒中の発現リスク増大が注意喚起されたこと等による。


8. セルフメディケーション推進のための民間、医療薬学関係者、および企業による連携

 
生活者と医療薬学関係者、団体、企業が、21世紀のよりよい医療や健康づくりのあり方を真剣に考えていく場として、特定非営利法人(NPO)のセルフメディケーション推進協議会(世話人代表 山崎幹夫氏)が組織され、平成14年5月に設立総会が開催された。厚生労働省の「健康日本21」などへの協力も期待されている。また、世界大衆薬協会(WSMI 会長上原 明氏)の第14回総会と第5回アジア・太平洋地域会議が、平成14年11月に開催され、世界27カ国から500名を超える参加者を集めた。本会議では、全ての関係者が医薬品の適正な利用の促進について、それぞれの役割を認識すること等が確認された。

9. 最後に

 患者(医療消費者)がOTCを効果的に、安全に利用するためには、薬剤師からの情報提供は不可欠である。そのために薬剤師は、医療用医薬品とOTCの薬物相互作用や、禁忌症についてより広く深い知識を得て、患者や他の医療関係者に的確に伝達できるよう努力をする必要がある。


文献

1)下平秀夫ほか、薬局,51,1663(2000).
2)薬事日報 第9680号 (2002.11.11)