論文執筆へ2つのブレイク・スルー
           --楽しくかこう--  
        


調剤と情報平成11年11月臨時増刊号 vol 5. 1943-1948,1999


文責 shimo

論文とは、学術的な研究成果を論理的に述べて書いた文章です。薬剤師が科学者で
あるとすれば、一度は論文を書いてみたいものです。本稿では薬剤師の論文の書き方
について、つたない経験をまじえて説明させていただきます。
 いままで論文を書くことに興味がもてなかった、あるいは無理だとおもってあきら
めていた現場の薬剤師が論文を書いてみたくなるような、あるいは、自分にも書ける
と希望がわくような内容になればと願っています。
 2つのブレイク・スルー(break through)で論文投稿に挑戦しましょう。注1

図1 「カンバスにコンテをえがく」
 本稿を執筆する前にえがいた著者の「らくがき」

 カンバスにコンテをえがくようにとはいかないが、鉛筆でかいて書き直し、文章の構成を決めた。○で囲んだところは、図や表になるところ。数字は話の順
序。



1論文のテーマ選び
 key wordその1「テーマは自分の興味の中にある」


 論文のテーマ選びで大切なことは、いま自分あるいは自分たちが何をしたいか、と
いうことです。業務上の課題がある、ひとにきいてもわからない疑問がある、それを
解決するにはどうしたらよいか、一生懸命やって解決できたら、それが他の人にも役
に立つかもしれない。がんばって皆に発表してみよう。これが論文発表までのあるべ
きすがたでしょう。いまの自分の興味がどこにあるかまじめに、あるいは楽しく考え
てみましょう。テーマは自分の心の中にあるのですから。

 テーマの例
  いま著者の心の中にある課題や疑問は次のようなものです。

・ 食べ物と医薬品の相互作用について患者さんにしっかり説明したい。どの程度説
明するのか。服用の間隔を何時間あければよいのか。
・ OTCの添付文書は患者さんにたいして情報量がたりない。禁忌症などの説明があい
まいなような気がする。このまま販売して「情報提供をするよう努力する」ことがで
きるのか。自分たちでやるにはどこまでやるべきか。添付文書記載要項改訂の話題が
あるがそれで解決できるのか。
・ 保険薬局として、処方せん発行機関に患者情報をフィードバックしたい。しか
し、患者にはどの保険薬局を選んだのか知られたくない人もいる。情報の共有とプラ
イバシー保護との関係はどうあるべきか。
・ 投薬/予薬/渡薬という言葉のルーツと好ましい使い方は。
・ OTCの点眼剤には「コンタクトの上から、そのまま点眼」をうたったものもあるの
に医療用点眼剤にはそのようなものはない。一部医療用でも使用可能らしいというも
のがあるが、ちゃんとした論文があるのだろうか。通常、防腐剤には塩化ベンザルコ
ニウムが使用されていると思うがこの違いは何なのだろうか……・・
・ ジゴキシン、フェノバルビタール、処方のメインとして用いられる医薬品の薬価
は安いのに、補助薬と思われる医薬品の薬価が高い。我が国の薬の費用と効果(ある
いは期待値)を客観的に比較してみたい。

…他にたくさんありますがこのへんで。


2執筆の構成
 key word その2 「カンバスにコンテをえがく」

 今回著者には、「論文発表に挑戦してみよう」というテーマを指定されて論文執筆
の依頼を受けました。図1に示したのは、著者の「らくがき」、かっこよくいえば白
いキャンバスにかいた「コンテ」です。○で囲んだ数字は、お話の順序です。図とい
う字を○で囲んだところは図表にできればいいなと考えている部分です。論文では、
図表でどう表現するかが非常に大切です。通常、結果のメインとなるところが図や表
で表されるため、その論文(研究)の方向性、すなわち実験・研究をどうするかの大筋
が決まってくるからです。コンテができるまでに箇条書きをいくつも作って消した
り、○をつけたりしています。

 研究結果がでたあとで悔やんでも手遅れです。コンテの時点で職場の方から意見を
きいてみるといいでしょう。
 また、よくばりすぎると焦点がぼけてしまいます。大切なものを残すために他のも
のを切り捨てる勇気も大切です。著者にもこの勇気が大いに欠けています。


3 情報収集 
 key wordその3「関連情報はトコトン探そう !!」

 自分がこれからやろうとしていることに関連したことを先人がやっていたとした
ら、さらにつっこんだ研究や、違う角度からの検討がしたくなると思います。読者の
貴重な時間をむだにしないために「新しいこと」「オリジナリティーにあふれるこ
と」「役にたつこと」を書けるように、情報はトコトンかき集めましょう。それには
日頃から自分の興味あることを分類しておくことが大切です。論文に限らず、本や新
聞の切り抜きも出典を必ず控えておきましょう。出典の控えがないと後で引用ができ
なくなったり、関連資料を探すときに困ります。資料が手にはいったら、それをラフ
に読んで興味あるところにマーカーでチェックをします。黄色のマーカーはコピーに
写らないので便利です。そしてもういちどコンテを書きなおしましょう。きっと書き
直すたびによくなっていくことでしょう。

 key wordその4「インターネットをつかってみる」

 インターネットは理解すればするほど便利であることを実感できます。インター
ネットは情報収集・発信手段としてとても有用で、コスト的にも優れています。一
方、有用な情報を上手に取捨選択しなければならないという注意点もあります。ま
た、出典があいまいだったり、著作権や肖像権の問題があります。本来薬剤師は情報
を扱う職種なので、情報収集・評価の訓練にもなることでしょう。

 key wordその5「ロボット型サーチエンジンでとことん探す」注2

 検索エンジンは他種類あるので、とにかく自分の使いやすいエンジンをひとつだけ
トコトン勉強すればよいと思います。著者の愛用はインフォシークです。インフォ
シークは基本的にロボット型ですが、カテゴリー検索もします。それから自然語検索
ができるという特徴を持っています。すなわち、「○○の作用」という自然な文章で
も、ある程度理解して検索してくれるということです。注3

 検索のこつはイマジネージョンを駆使すること、多面的にアプローチすることで
す。一回だけであきらめず、しつこく検索してみましょう。
 検索結果はホームページを丸ごとコピー(ダウンロード)するソフトで保存すれば、
あとでゆっくり閲覧できます。これで、電話料金、プロバイダー料金を大幅に節約で
きます。また、これをカテゴリー別に分けてデータベースを作ると、自分専用の図書
館のようになり大変重宝です。


key wordその6 「日本語論文も英語論文も無料で検索できる」

 英語であれ、日本語であれ、医学・薬学論文の検索に、以前は大変お金がかかりま
した。当薬局でもMedlineと医学中央雑誌のCD-ROMの年間契約料だけで年間50万円も
かかっていました。ところが、最近はイン