患者向け副作用用語に関する研究

患者向け医療用語に関する研究班
 
○下平秀夫、明石貴雄、阿部宏子、泉澤 恵、大嶋 繁、笹嶋 勝
田村祐輔、堀口雅巳、林 昌洋、望月眞弓、田中依子、山崎幹夫

厚生科学研究医薬安全総合研究事業

[目的]

 医薬品情報は、膨大な時間と労力をかけて創出されている。しかし、これらが
医療の現場で情報提供の対象者(医師、薬剤師、患者)によく理解され、利用されている
かどうかは未解決の部分が多い。本研究では、処方医薬品によって発現する可能性のあ
る重大な副作用を未然に防ぐための患者向け情報提供に関して実用的な手法を開発する
べく、副作用情報、特に重要な副作用情報の情報処理方法を検討することを目的とした。


[方法・結果]

 重大な副作用の初期症状は、患者が有している疾患の症状や、軽微な副
作用の症状と重複することが少なくない。これらの症状(ノイズ)を情報処理せずに提供
した場合、患者の不安を助長したり、医療者の対応が煩雑化するおそれがある。そこで
こうした重複症状がどの様な薬剤でどの程度発生しているのか調査し、相殺等の問題解
決のための情報処理が可能かどうかに関して検討するため、以下の手順で作業を行った。

1. 各薬効群から7種類の医薬品を抽出した。
慢性疾患治療薬として、β遮断薬、喘息治療薬、H2遮断薬。高齢者の使用薬剤として、
BZ系薬剤、パーキンソン氏病用薬。急性疾患治療薬として、NQ系抗菌薬、NSAIDs。これ
らの医薬品群から典型的な1薬剤を選択した。

2. 各医薬品につき添付文書から、その適応症、重大な副作用、その他の副作用を抽出
した。重大な副作用は、根拠となる文献の量によって3段階に分類した。リスクファク
ターや、原因・発現機序情報が知られているものはこれらの情報を付加した。

3. 重大な副作用の初期症状(患者向け用語)、その他の副作用の症状(医療者向け用語)、
適応疾患の症状(医療者向け用語)の対応表を作成した。症状は患者が自覚できるもの
に限定し、発現器官ごとに分類、症状が重複するところを強調し、参考として重複率を
算出した。

4. 個々の重大な副作用について、患者用の副作用説明文を作成した。
なお、自覚症状や説明文を標準化するために利用した書籍は以下の通りである。
重大な副作用回避のための服薬指導情報集1-4、グッドマン・ギルマン薬理書、メイラ
ーの副作用大辞典、メルクマニュアル家庭辞典。

[考察]

 薬物治療の現場では、安全管理に寄与しつつも、不安を助長しない標準的患者
向け副作用情報の構築が求められている。そのための情報処理を行うことは、重大な副
作用発現防止の効率と精度を高めると考えられる。


[備考]

本研究は、平成12年度厚生科学研究医薬安全総合研究事業によって実施された。