医療薬学総論

しもがつくった問題です。みんなできるかな?   2002.5.23

1 薬剤師の役割と義務

調剤と適性使用のための情報提供

ライ症候群発症に対する安全対策として、小児のウィルス性疾患(水痘、インフルエンザなど)の患者への投与が原則禁忌とされていないものはどれか。

1 エテンザミド

2 サリチルアミド

3 ジクロフェナクナトリウム

4 アシクロビル

5 アスピリン・ダイアルミネート

6 アスピリン

■キッカケ

緊急安全性情報や、医薬品・医療用具等安全性情報はチェックしておくこと。医療用小児用バファリンは、最近バファリン81mgとなった。これはアスピリン・ダイアルミネートを含む。しかし、OTCの小児用バファリンはアセトアミノフェンを含み、ライ症候群の心配はない。

■解説

4のアシクロビルは抗ウイルス薬であり、水痘に適応症を有す。小児には120mg/kg 14回投与する。1日最高量800mgまでとする。

■参考&正解   新傾向     * 正解 4

■これだけは

医薬品・医療用具等安全性情報 No.167 2001.6 サリチル酸系製剤の小児に対する慎重な使用についてで注意喚起された。サリチル酸系制剤は既にNo.151でも注意喚起されている。1256はいずれもサリチル酸系製剤である。3NSAIDsであるが同様の注意が必要であり、副作用情報で注意が喚起されている。

 

2医薬品の適性使用

医薬品情報の提供

次の記載は、薬を投与する際に、薬剤師が患者に悪性症候群という重大な副作用を回避する目的で、初期症状を説明した例である。症状「 a 」および、投与薬剤に当てはまる組合せはどれか。

a」などの症状や、唾液が増える、ものが飲み込みにくくなる、脈がはやくなる、筋肉がこわばるなどの症状が現れた場合は、主治医と連絡をとり、すぐに病院に受信して下さい。

   a       投与薬剤
1  急な高熱・発熱      ハロペリドール
2

急な高熱・発熱

 カプトプリル
3 胸の締め付けられる感じ ベザフィブラート
4 胸の締め付けられる感じ ハロペリドール
5  手足がしびれる  カプトプリル
6 手足がしびれる ベザフィブラート

 ■キッカケ

重大な副作用は、起こす可能性の高い薬剤や、その初期症状を医療スタッフが熟知し、必要あれば患者にわかりやすい言葉で注意を喚起しておくべきである。

■解説

1 ○初期症状として、急な高熱・発熱がもっとも重要である。ハロペリドールは抗精神薬。

2 ×ACE阻害薬。添付文書に重大な副作用として「悪性症候群」は記載されていない。

3 ×高脂血症用薬。添付文書に重大な副作用として「悪性症候群」は記載されていない。

4 ×「胸の締め付けられる感じ」は、重大な副作用の「安静狭心症」などの初期症状。

5 ×「手足がしびれる」は、重大な副作用の「横紋筋融解症」などの初期症状。

■参考&正解   84-223  85-225  正解1

■これだけは

悪性症候群(Syndrome Malin)は、一般に抗精神病薬の投与中、または抗パーキンソン病薬の中止や投与量の変更に伴い認められる高熱、意識障害、筋強剛や振戦などの錐体外路症状及び発汗や頻脈などの自律神経症状を主徴とする症候群であり、早期に適切な治療が行われなければ重篤な転帰をとることもある副作用である。

 初期症状に気がついたら速やかに医療機関を受診するように指導する。

■悪性症候群に対する薬物療法

薬物療法としては、ドパミン作動薬(メシル酸ブロモクリプチン)やダントロレンナトリウムが用いられている。ダントロレンナトリウムはわが国で平成6年に悪性症候群に対する適応が承認されている。

■厚生労働省からの再三の注意喚起

医薬品副作用安全性情報で、No.99(平成元年11月号)「解説−向精神薬による悪性症候群」において、ハロペリドール等向抗精神薬と抗パーキンソン病薬について注意が喚起され、またNo.126(平成6年5月号)の「ドロキシドパと悪性症候群」においてドロキシドパについて注意が喚起され、併せて抗パーキンソン病薬全般についても注意が喚起された。また、No.132(平成77)でも「抗パーキンソン病薬」について注意が喚起されている。

3 総論 繁用医薬品用語

 

 患者対照研究(Case-Control Study)について述べられている記述はどれか。

 

1 概説のひとつで、複数の研究結果のオッズ比を併合などをする量的手法。

2 関心のある転帰を示す患者とそれと同じ転帰でない対照を明確にし、関心のある要因への曝露があるかをさかのぼって見直す研究デザイン。

3 関心ある事項へ曝露した集団と曝露していない集団の2つの患者集団を同定し、これらが関心ある転帰を示すまで追跡する研究様式。

4 大規模な臨床研究など科学的に裏付けされたデータを基にして、患者にとってもっとも有益で害の少ない治療法を選ぶこと。

■キッカケ

あやふやな経験や直感に頼らず、科学的evidence(証拠)に基づいて最適な医療・治療を選択し実践するためには、薬剤疫学的な知識が要求される。

■解説

1 ×メタアナライシス(Meta-analysis)について述べている。

2 ○患者対照研究(Case-Control Study) について述べている。

3 ×コホート研究(Cohort Study) について述べている。

4 ×EBM(Evidence Based Medicine)について述べている。

■参考&正解   85-214   * 正解2

■これだけは

臨床的な診断や治療はともすれば個人の経験や慣習に左右されることがよくある。また、単に動物実験より類推した論理や権威者の意見により考察されることもある。これらは、しばしば何の根拠もなく行われているために、患者さんに不利益をもたらす。また、医療費の高騰や社会資源の無駄となる。

これを回避するためには、疫学などの研究成果や実証的、実用的な根拠を理解し、効果的で質の高い患者さん中心の医療を実践するべきである。

「根拠に基づいた医療」(EBM)は、経験に頼ってきた従来の医療を改善するため、大規模な臨床研究など科学的に裏付けされたデータを基にして、患者にとってもっとも有益で害の少ない治療法を選ぶことをいう。

4 非臨床試験 臨床試験

医薬品の開発と評価 臨床試験に関する問題

臨床試験(治験)に関する次の記述の正誤について、正しい組み合わせはどれか。

a 症状の改善が得られないので、冶験担当医師が実施計画書に明記された用量・用量を変更して冶験薬を投与した。

 臨床試験は、GMPの遵守のもとに行われる。

臨床試験において、治験候補者が学童期の生徒なので、本人には知らせず、両親の同意を文書で確認した。

 治験において経験豊富な臨床医がおこなえば、対照群との比較試験は必要ない。

e 治験の被験者となることに同意した入院患者が、途中で治験の継続を拒否したので転院することを勧めた。

   a   b   c   d  e

1  正 正 誤 誤 誤

2  正 正 誤 正 誤

3  誤 誤 誤 正 誤

4  誤 誤 正 正 正

5  誤 誤 正 誤 正

6  誤 誤 誤 誤 誤

■キッカケ

臨床試験といった場合は医薬品の承認申請に関係ない臨床研究も含まれるが、承認を得るために実施される臨床試験を特に「治験」という。

 

■解説

a× プロトコルの範囲で継続できないのであれば、その患者について冶験は中止すべきである。

b× 臨床試験は、GCP(Good Clinical Practice)の遵守のもとに行われる。

c×1983年のベニスでの世界医師大会で「未成年者からもインフォームド・コンセントを得ることが必要である。」と採択されている。小児を対象にした治験において本人に同意能力がある場合には、法定代理人(親など)の同意に加えて本人の同意も必要である。分かりやすい言葉や文書で説明する。

d ×比較試験の重要性は、臨床医の経験とは無関係である。

e×患者は治験への同意後、治験への参加について、いつでも拒否または撤回が可能である。それは理由のいかんにかかわらない。

■参考&正解   * 正解6

■既出問題研究   84-240  85-215  86-211

■これだけは!

我が国の治験の信頼性が疑問視され、19974月よりGCPが大幅に改められた。

以下に新GCPの概要を示す。

一部の医師に権限が集中しないよう、「治験統括医師」は廃止された。(薬害エイズなどからの反省)

治験審査委員会(IRB)の構成委員には、自然科学系以外の領域の人や、医療機関と関係ない人の参加を義務付けた。

インフォームド・コンセントは、患者にわかりやすく、かつ文書で同意を得なければならない。

治験が適切に実施されているかを製薬企業がチェックするモニタリング制度を新設した。

 

5 統計用語

同一患者に異なった薬剤を時期をずらして投与し、反応を研究する試験の方法はどれか下記より選べ。

1 群間比較法

2 二重盲検比較試験

3 無作為化

4 クロスオーバー法

■キッカケ

 新聞のチラシや健康雑誌には「使った、治った、効いた」という紹介文が多い。このような説明は三つの「た」つまり「三た論法」といわれる。これには予期効果や暗示効果で治った部分が多分に含まれているので、効くと判断することは危険である。だから理論的な試験をする必要がある。

■解説

1×群間比較法

ある処置の効果を評価するため、処置を受けた集団と受けない集団を設け、比較観察を行い、処置の効果を検討する方法。通常、二重盲検比較試験はこの方法で行われる。

2×二重盲検比較試験

薬物またはプラセボを患者に無作為に割り付けて、医師、患者にいずれの薬物が用いられているかを知らせないで行う薬効比較試験。デザインには群間比較法、クロスオーバー法がある。

3×無作為化

臨床試験において各治療法のいずれかを適用するかをランダム(無作為)に決定することにより、比較可能な偏らない群を作ることが確率的に保証される。

4○ 交差試験または交互試験と呼ばれる。同一患者に異なった薬剤を時期をずらして投与し、反応を研究する試験。慢性の疾患で、傾向変動が見られず、薬剤の治療効果が可逆的な場合に適している。 

■参考&正解   82-213   86-212  * 正解4

■これだけは

多くの医薬品の最終的な適用対象は人間、ヒトであり、ヒトにおける有効性と安全性が認められない限り医薬品とはなりえない。ヒトにおける有効性と安全性を確かめ、臨床における有用性を評価するために行われる臨床試験のことを治験とよぶ。

ヒトに対する治験は被験者に対する倫理的な配慮が必要となり、国際的には、ヘルシンキ宣言(1964)でうたわれ、またわが国では1991年(平成三年)よりGCP(Good Clinical Practice 医薬品の臨床試験の実施に関する基準)が施行されている。治験は第一相、第二相、第三相の三相に分けられている。