◆ 新薬情報 index

2020年6月製造販売承認

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■リベルサス錠3mg,7mg,14mg■バフセオ錠150mg,300mg■エンレスト錠50mg,100mg,200…■エナジア吸入用カプセル中用量,高用量■オンジェンティス錠25mg
■ エンレスト錠50mg,100mg,200mg
心不全には1日2回投与し初期は少量で段階的に増量、高血圧には1日1回投与
1. 承認概要
新有効成分 2020年6月 / 2020年8月 発売
2. 薬効分類名
アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)
3. 一般的名称
サクビトリルバルサルタンナトリウム水和物
4. 適応症
<50mg,100mg,200mg>
慢性心不全
ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る

<100mg,200mg>
高血圧症 ※2021年9月適応追加
5. 類薬との比較

6. 特徴
【特徴】
本剤は、体内でARBのバルサルタンとネプリライシン阻害薬のサクビトリルに隔離して、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン(RAA系)の抑制作用と、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)系の増強作用を併せ持つことで、心不全の進行を抑えます。
 
添付文書
患者向医薬品ガイド

【承認状況】
海外では 2015年7月に最初に米国で承認されて以降、既に100ヵ国以上で承認されています(2020年6月現在)。

【作用機序】
本剤は、サクビトリルによるネプリライシン(NEP)阻害作用と、バルサルタンによるアンジオテンシIIタイプ1(AT1)受容体拮抗作用によって、体液量と血圧が低下することで心負荷を軽減し、心不全による症状・進行を抑制できると考えられます。

【用法・用量】
<慢性心不全>
通常、成人にはサクビトリルバルサルタンとして1回50mgを開始用量として、1日2回経口投与します。忍容性が認められる場合は、2~4週間の間隔で段階的に1回200mgまで増量します。忍容性に応じて適宜減量しますが、1回投与量は50mg、100mg、200mgとし、いずれにおいても1日2回投与です。
なお、本剤は、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬またはアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)から切り替えて投与します。
心不全に対する用法で、1日2回の理由として、心保護作用が24時間持続するように半減期をもとに設定されました。低血圧の副作用リスク軽減もできます。サクビトリルの活性代謝産物も1日2回が望ましいとされています(海外)。

<高血圧症>※2021年9月加筆 改訂について詳細はこちら!!
通常、成人にはサクビトリルバルサルタンとして1回200mg を1日1回経口投与します。なお、年齢、症状により適宜増減しますが、最大投与量は1回400mgを1日1回とします。
高血圧症に対する用法で、1日1回の理由として、アドヒアランス向上のため、1日1回で臨床試験を行った結果、トラフにおいても血圧変動が少ないことが確認されたためです。

2024-02、慢性心不全の小児用量が追加されました。
小児の慢性心不全に対する用法・用量は、通常、1歳以上の小児には体重に応じた開始用量を1日2回経口投与し、忍容性が認められる場合は2~4週間の間隔で段階的に目標用量まで増量して用います。エンレストの粒状錠小児用12.5mgと同31.25mgは申請されていますが、2024-02では承認されませんでした。

【副作用】
慢性心不全患者を対象とした国内および海外の第III相臨床試験において、調査症例4,314例中966例(22.4%)に臨床検査値異常を含む副作用が認められました。主な副作用は、低血圧448例(10.4%)、高カリウム血症201例(4.7%)、腎機能障害124例(2.9%)、咳嗽67例(1.6%)、浮動性めまい63例(1.5%)、腎不全34例(0.8%)、心不全31例(0.7%)、起立性低血圧31例(0.7%)でした(承認時)。
なお、重大な副作用として、血管浮腫(0.2%)、腎機能障害(2.9%)、腎不全(0.8%)、低血圧(10.4%)、高カリウム血症(4.7%)、ショック(0.1%未満)、失神(0.2%)、意識消失(0.1%未満)、間質性肺炎(0.1%未満)、無顆粒球症、白血球減少、血小板減少、低血糖、横紋筋融解症、中毒性表皮壊死融解症(TEN)、Stevens-Johnson症候群、多形紅斑、天疱瘡、類天疱瘡、肝炎(いずれも頻度不明)が設定されています。
7. 使用上の注意と服薬支援
【薬剤師への注意】
1.初回投与時は、ACE阻害薬またはARBから切り替えて使用します。ただし、ACE阻害薬との併用は血管浮腫が現れる恐れがあるため禁忌であり、ACE阻害薬から切り替える、もしくは本剤からACE阻害薬に切り替える場合は、少なくとも36時間空ける必要があります。
2.重度肝機能障害(Child-Pugh 分類 C)のある患者には、本剤の血中濃度が上昇する可能性があるため、禁忌です。
3.50mg錠は100mg錠・200mg錠との生物学的同等性が確認されていないため、100mg以上の投与量の場合では50mg錠を使用することはできません。

【患者さんへの指導例】
1.この薬は、心臓の負担を減らし、血圧を下げる作用によって、心不全の悪化を抑えます。
2.血圧が下がることで、めまいやふらつきが現れることがあるので、高所での作業、自動車の運転などの危険を伴う機械を操作する場合には注意してください。
3.唇・まぶた・舌・口の中・顔・首が急に腫れる、喉がつまる感じ、息苦しい、声が出にくいなどの症状が現れた場合は、すぐに連絡してください。
4.体のしびれ、脱力感、吐き気、嘔吐などの症状が現れた場合、体内のカリウム値が高くなっている可能性があるので、すぐにご相談ください。

【ここがポイント!】
心不全が進行すると、心臓のポンプ機能が低下して循環血液量が減少し、これを補うためにレニン・アンジオテンシン・アルドステロン(RAA)系と心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)系の働きが亢進します。そして、その状態が続くと心臓に負担がかかり、心不全がさらに悪化するという悪循環に陥ります。
本剤の有効成分はサクビトリルおよびバルサルタンですが、いわゆる配合薬ではなく、サクビトリルとバルサルタンを1対1のモル比で含む医薬品であり、経口投与後に速やかにサクビトリルとバルサルタンに解離します。
サクビトリルは、ANPを不活化するネプリライシン(NEP)を阻害してANP系を増強し、心室肥大の抑制や抗線維化などの心保護作用をもたらします。しかし、NEPはアンジオテンシンII(AII)の不活化作用も有するため、阻害されるとRAA系の働きを強めてしまいます。そこで、本剤はサクビトリルとバルサルタン(ARB)を組み合わせることでRAA系を抑え、心保護作用と降圧作用を得ることができる薬剤となり、すでに欧米を含む世界100ヵ国以上で承認されています。
初期投与量は50mgから開始して、忍容性を確認しながら維持量まで増量します。増量時の注意点として、50mg錠は100mg錠・200mg錠との生物学的同等性が確認されていないため、100mg以上の投与量の場合では50mg錠を使用することはできません。
発売当初は錠50mgを2錠と、錠100mgを1錠の生物学的同等性が確認できていませんでしたが、現在は確認されているので、上記部分は削除されました。

また、1回50mgから100mgへ増量時の基準として、(1)症候性低血圧がなく、収縮期血圧が95mmHg以上、(2)血清カリウム値5.4mEq/L以下、(3)eGFR 30mL/min/1.73m2以上かつeGFR低下率35%以下が示されています。
注意すべき副作用として、本剤のブラジキニン分解阻害作用による血管浮腫、脱水(ナトリウム利尿)などがあります。臨床試験での発現頻度は低いものの、重症化すると生命を脅かす可能性がありますので、十分に注意して経過を観察しましょう。
ACE阻害薬またはARBから切り替えて使用する。ACE投与中あるいは、中止後36時間は併用禁忌!!
8. 製造販売元など
製造販売元:ノバルティス ファーマ株式会社
お問合せ先:ノバルティス ファーマ株式会社 ノバルティスダイレクト 0120-003-293

更新 2021.09 高血圧症の適応追加
更新 2023.07  イライト、用法の説明
更新 2024-02 慢性心不全の小児用量追加
(文責 下平秀夫) 2020年11月/2024年2月更新