心不全の薬物療法(ファンタスティック4と国家試験解説) 

■1. 心不全とは

心不全は、心臓の役割である、血流を全身に送るというポンプ機能がはたせない状態です。その結果、うっ滞した血流により体の様々な部分に水がたまるため、胸の水がたまると息切れがし、足に水がたまると浮腫となります。また、ポンプ機能が低下し体の血流が保てなくなると、体がだるくなります。高齢化にともない心不全患者は増加しています。

心臓(左心室)の収縮能のLVEFの保たれた心不全(Heart Failure with preserved Ejection Fraction:HFpEF「ヘフペプ」,LVEF≧50%),軽度低下した心不全(Heart Failure with mildly reduced Ejection Fraction:HFmrEF「ヘフエムレフ」,40%≦LVEF<50%),低下した心不全(Heart Failure with reduced Ejection Fraction:HFrEF「ヘフレフ」,LVEF<40%)と定義されています。
<2021年 日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン フォーカスアップデート版 急性・慢性心不全診療>

■2. 心不全の薬物療法の変遷 


<1980年代>心臓に頑張ってもらうために、ジゴキシンのような強心配糖体を使えば良くなるのではないかと多用されました。しかし後の、研究の結果、長期的にはむしろ悪化するということがが示されました。

<1990年代>逆に、心臓がバテないように心臓の負担を軽減するβ遮断薬の効果が調べられ、予後を改善することが示されました。

<1987年>ACE阻害薬(エナラプリル)が心不全の予後を改善することが示されました。

<1999年>ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)のスピロノラクトンが、心不全患者の予後を改善することが示されました。スピロノラクトンは昔「カリウム保持性の利尿薬」→「抗アルドステロン薬」→現在「MRA」と時代によって呼称が変化しています。流行りがあるのですね~ 。MRAであるミネブロ錠についてはこちらに解説しています(ただし適適応は高血圧症)。 ケレンディア錠についてはこちらに解説しています(ただし適応は2型DM患者のCKD)。

<2014年>アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI、エンレスト)が、ACE阻害薬以上に、心不全の予後を改善することが示されました。エンレスト錠についてはこちらに解説しています。

<2019年>糖尿病薬として開発されたSGLT2阻害薬が心不全の予後を改善することが示されました。

■3. 心不全薬物療法の今「ファンタスティック4」

2021年度に改訂された『急性・慢性心不全診療ガイドライン 2021』では、HFrEFに対する薬物療法としては、ACE阻害薬、ARBは積極的にARNIに切り替え、またSGLT2阻害薬も積極的に使用するようになっています。β遮断薬、MRA、ARNI、SGLT2阻害薬の4種が、アメリカン・コミックスに登場するヒーローチームに由来する「ファンタスティック4」と呼ばれるようになりました。これらにより生命予後を伸ばし、心不全入院を減らすことが期待されています。

2024.02の109回薬剤師国家試験では、問290-291でファンタスティック4(エンレスト、セララ、フォシーガ、ビソプロロール)が出題されました。

第109回薬剤師国家試験 ファンタスティック4の出題について
問290-291 症例
レニベース錠(ACE阻害薬)、メインテート(β遮断薬)、セララ(MRA)が投与されていた79歳女性が慢性腎不全の悪化(左室駆出率35%)となり、レニベース→エンレスト(ARNI)に変更され、さらにフォシーガ(SGLT2阻害薬)が追加。典型的なファンタスティック4となりました。

本症例では、左室駆出率が35%となっているので、まさしく左室駆出率が低下した心不全(HFrEF)に当たります。
勉強していた受験生はLVEFを見ただけで、ファンタスティック!! と感嘆したことでしょう。

問290
〇息切れと肺うっ血は左心不全によるものである。
〇血清カリウムに注意。(ARBもARNIも高カリウムに注意。)
×フォシーガは高血糖の改善を目的に処方。(設問では検査値で空腹時血糖102mg/dL、HbA1c5.8%として提示しています。特定健診では食前血糖100mg/dL以上、HbA1c5.6%以上は異常値とされ、「糖尿病予備軍」ではあります。このへんに引っ掛けか?といういやらしさがにじみ出ています。しかし2型糖尿病となったとしても、初回投与からいきなりフォシーガ10mg投与はありえません。逆に慢性心不全と慢性腎炎で5mgは適応なく、10mgが適応となっています。)
問291
〇ふらつきに注意(エンレスト、メインテート、フォシーガ、セララ)
〇陰部掻痒感に注意(SGLT2阻害薬による皮膚掻痒症、尿路・性器感染症)
感想としては、レニベース→エンレストの切り替え時の設問も臨床上重要と思いましたが、今回は無難に仕上げられた感じですね。
(血管浮腫があらわれるおそれがあるため、エンレスト投与前にACE阻害薬が投与されている場合は、少なくとも本剤投与開始36時間前に中止する。)

■4. わが国では近年心不全に適応を持つ薬剤が増えています。

新薬のsGC刺激剤のベリキューボ錠についてはこちらに解説しています。新薬のコララン錠についてはこちらに解説しています。


■5. ベーターブロッカー

慢性心不全への適応を持っているのは、カルベジロール(アーチスト)とビソプロロール(メインテート)。2つの使い分けについて、以下にまとめしまた。

■2-1.カルベジロール(アーチスト)
α1・β1・β2受容体を遮断。遮断効力比はα:β=1:8、β1:β2=7:1。
【適応抜粋】
   虚血性心疾患または拡張型心筋症に基づく慢性心不全(1.25、2.5、10mg)
   頻脈性心房細動(2.5、10、20mg)
【禁忌】気管支喘息、気管支痙攣 他   
【排泄経路】主に胆汁排泄
【選ばれやすい病態】
・徐脈の場合(ビソプロロールは徐脈効果が高いため)
・腎機能低下
・糖尿病(α遮断作用により骨格筋への血流が改善、インスリン抵抗性も改善)

■1-2.ビソプロロール(メインテート)>
β1:β2=75 : 1
 【適応抜粋】
  心室性期外収縮(2.5、5mg)
  虚血性心疾患または拡張型心筋症に基づく慢性心不全(0.625、2.5、5mg)
  頻脈性心房細動(2.5、5mg)
【排泄経路】主に尿中排泄
【選ばれやすい病態】
・頻脈(徐脈効果)
・喘息(カルベジロールは禁忌)
・起立性低血圧(カルベジロールはα遮断による血圧低下でめまいやふらつき)
・貧血(カルベジロールはヘモグロビンを減少)

■以下参考にさせていただきました。
薬剤師くるみぱんの勉強ノート

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